メキシコ日記 5

眠りから覚める。かれこれ1時間ほど眠っていたようである。

窓の外を見ると、子供た ちが楽しそうにはしゃいでいる。

その横には母親であろうか編み物をしている。

気持ち のいい昼下がりである。

昼食をとった時は気がつかなかったが、いろいろな店が出てい る。

観光客相手であろうかインディオの親子が店を開いている。

町を歩くことにする。

ここは民芸品の宝庫と聞いている。

メルカードと呼ばれる市場 に一歩足を踏み入れると、雑踏と喧騒の世界であった。

町に動きがゆっくりしているだ けに、一種独特の雰囲気がある。

体育館のような建物で窓がなく、品物も天井近くまで 積みあげて、人がすれちがうのも辛いぐらいの道しかとっていないので、暗くでごみご みしている。

生活に必要なすべてがそろっている。

その中のものに結構土産物になるも のが多い。

たとえば、テーブルクロスなどは100円位でいいものにめぐりあえる。

同 僚の土産にと10枚買うと、店のおばさんはなぜこんなに買うのか不思議そうにしてい た。

まさか100円のテーブルクロスとは思わないであろう。

大きな刺繍もされている から少なくとも1000円位には見える。

食堂だけが集まっている部分もある。

食堂といっても屋台と言った方がよいカウンタ ーだけのものである。

同じようなものを売っているのだが、それなりに個性があるらし く、流行っている店とそうでないものがある。

肉料理が主である。

いろいろな臭いが混 じっているが、やはり主食のとうもろこしの臭いが強い。

別に腹は減っていなかったが、 適当な店に腰をかけ、これまた適当に注文すると、大きな皿に鳥肉が出てきた。

スー プの中に鳥の足が1本浮かんでいる。

そして、トルティージャと呼ばれるとうもろこし の粉を薄く円板状に焼いたものが3枚出てくる。

ビールも頼んでいたので、その横にそ れが並ぶ。

メキシコではビールにはコップが出て来ない時が多い。

おかげでビールのラ ッパ飲みの美味しさを知った。

まず、一口ビールを飲んで、スプーンで鳥の足に挑む。

なかなか食べにくいが、他に食器がないし、スープの中に手を突っ込んで、手で食べる というわけにはいかないのである。

肉にはあまり味が付いていないので、スープを口の 中に流しこみながら食べる。

味は薄いカレー味にタバスコを振り掛けた感じである。

ち と、選択ミスかなと思いながら、ビールを追加して残さず食べた。

ただし、トルティー ジャは残ってしまった。

タコスにも、このトルティージャが台になっているので食べた ことある人も多いと思う。

僕はどうもあの臭いに弱い。

完全に満腹になったので、腹ごなしに散歩をする。

道に面している壁はおせいじにも 綺麗と言えない家ばかりであるが、家の中をのぞくと、中庭はどの家も花で飾りつけて いる。

中庭を大事にするスペイン文化の影響であろう。

それにしても、もうすこし外に 金を掛けたらいいのにと思う。散歩していても、同じ色の壁だけがずっと続くだけだか ら、退屈する。

港町の倉庫街を歩いているようである。

旅行社を見つけたので入ってみる。

明日予定しているモンテアルバン遺跡に行くバス を尋ねるためである。

そこにいた女の人は英語が分かる。

メキシコに来て英語のありが たみを痛感している。

英語を聞くとほっとするのである。

英語の苦手な私なのですが。

話を聞くとどうもツアーを使わないと行けないようである。

どうせだから、明日8時発 のものに予約を入れておく。

ついでに、インディオの民族ダンスを見せてくれる場所も 尋ねる。

この町に来たもう一つの目的である。

遺跡の石にも描かれている古来からの踊 りにも関係しているものである。

本来、7月に行われるオアハカ州各地から民族衣装で 集まった人々によって踊られるものであるが、観光客相手に毎日どこかでやっていると ガイドブックにはある。

聞いてみると、僕が泊まったそぐ近くのホテルであると言う。

予約はそこで直にしてくれとの事であるので、帰りに予約もしておいた。

ダンスショーが始まるまでしばらく時間があるので、ソカロで時間を潰す。

とにかく、 1時間ボケーとしていたのである。

しかし、その間数十回声を掛けられたが。

面白い もので暇そうな人間には声をかけやすいのであろうか。

ほとんどが物売りのたぐいであるが、なかには、アメリカの若い女性もいた。

みんなここにいる人達は暇なんだなぁと 感じる。

いや、暇を楽しんでいるようにも感じるが。

ほとんどの大人はソカロの中央で 演奏しているオーケストラに耳を傾けながら、ぼーとしている。

元気に動き回ってるの は子供たちだけである。

まだ開演まで時間があるが、いい席を取りたいので例のホテルに行く。

半数ぐらいの 席がもう埋まっていたが、予約していたお蔭でいい席を取っておいてくれた。

テーブル に案内されると、若いカップルと相席である。

今晩はと挨拶をして座ると、どこから来 たか?と尋ねられる。

メキシコに来て感じることだが、僕を日系アメリカ人と間違える ようである。

日本からと答えると必ずびっくりされる。

この時もそうであった。

しばら くして僕の知っているスペイン語が出尽くしたので、困っていると男の方が英語でいいよと言う。

女の方は英語はだめなようである。

英語は彼にとって第二外国語なので僕と いい勝負である。

急に、リラックスして話せるようになる。

なぜ、メキシコに来たのか? とか、どこに行ったか?どこに行くつもりか?といろいろ尋ねてくる。

遺跡めぐりを していると話すとますます僕に興味を持ったらしく、メキシコ以外に行った所を聞いて くる。

ヨーロッパの話などして、イタリアの話になり、イタリアのどこが良かったか? という所まで突っ込んでくる。

フイレンツェやベニスの事をしばらく話すと非常に機嫌 がよい。

そして、アメリカには行ったか?と聞くので、歴史のない国には興味がないと 答えた。

これが、最高のキーワードになったようである。

今まで自分のことを話さなか った彼が急にいろいろと話し出したのである。

内容は簡単に言うとこんな様子であった。

彼の父親はドイツ人で母親はイタリア人である。

今はスイスのチューリッヒに住んで いる。

以前、メキシコに旅行したときにカンクンのユースホステルで今横にいる彼女と 知り合って結婚した。

今回の旅行はバケーションを兼ねての里帰りである。

明日はいよ いよメキシコシティーにいる彼女の家族と再会できるので楽しみである。

日本の音楽に は興味がある。

レコードも何枚か持っている。

そして、名刺を渡された。

そこにはミュージシャンと書かれていた。

ここまで話したところでショーが始まった。

ヨーロッパのフォークダンスと衣装は華 やかなのは似ているが、ここの踊りの方が動きが早い。

また感情的でもある。

恋愛、求 婚を題材にしたものが多く、踊りのなかに物語があり、見ていてその筋がよく分かる。

10グループぐらい入れ代わり登場した。

男が女を追っ掛けるところなどは、お互い真 剣に逃げ、そして追い掛け、まるで本当のカップルが出来るのではないかと錯覚したぐ らいである。

女の顔が真っ赤に恥じらう姿は今でも印象的である。

この踊りを見れただ けでもメキシコに来た価値がある。

素晴らしいあっという間の2時間であった。

この時 ほどビデオを持ってきていたらなぁと思ったことはない。

おどりの感想を言い会っている間に話はさらに発展し、明日の夜メキシコシティーの彼 女の実家に招待するということまでになった。

明日がぼくの**回目の誕生日というこ とを知ったからである。

明日のお互いの飛行機の便を確認しあい、その夜は別れた。

今 日の酒代も彼がもってくれた。

断ると彼女はブルジュワだからと言われたので、ありが たく御馳走になった。

ますます不思議なカップルに思えた。

ショーのあったホテルを出ても自分のホテルの部屋に帰ろうという気分になれない。

あまりにも興奮してしまって、この気分をいつまでも味わいたいと思い、近くにあった バーに入る。

大好きなカンパリソーダを何杯もおかわりして、今日の踊りの世界で遊ん だ。