午前3時。
予定通りというか、目的のバターワース行の列車がやってきた。
この時間だから、もうすでに別の人が寝台に寝ているかもね、とカミさんと話しながら乗る
と、まさにその通りであった。
上下段の二人分の寝台を予約していたのだが、予約の寝台の上段には先客がいた。
丁度、車掌が通ったので、車掌からこの先客に移動してもらうこととする。
しかし、起きない。
熟睡している。
かなり揺らして起こすと、金髪の薄汚れたバックパッカーらしい若者が顔を出した。
車掌が切符を見せるようにと促すと、不機嫌な顔で切符を出した。
日付は今日の切符で、寝台の座席番号も、彼の寝ている寝台である。
しかし、この列車はすでに日をまたいで走っている。
日付は昨日のものでないとこの列車には乗れない。
こうなると、車掌の英語では説明できなくなり、同じ車両にいた英語の達者なタイ人の女性が
呼ばれてきた。
彼女の説明で納得できた若者は別の寝台へ移り、追加料金を払うということとなった。
彼がいなくなると、係りの人がやってきてシーツを交換した。
やっと寝ることができると思ったら、先ほど見せた切符がなくなったと若者が戻ってきた。
そんなものシーツの交換が終わっているのだからあるはずもない。
しばらく、彼と車掌との話し合いがデッキで続いた。
そして、先ほど通訳に入った女性が持っていることがわかり、やっと静かな時間が訪れた。
外が見れるので、私が下段に寝ることとなっていたが、車窓を見る時間もなくすぐ眠ってしまった。
2等寝台は、1等寝台と違って個室ではないが、幅は1等寝台より広い。シートも柔らかめで
快適であった。
外が明るくなって目が覚めた。
時間は6時を過ぎていた。
外は薄明りだが、すでに働いている農民が見える。
しばらくすると、カミさんが上から降りてきた。
上は窓がないし狭いという。
カーテンの外がにぎやかになり、駅に停まるたびに人が降りていく。
早いところはすでにベットを片付け、テーブルを出してコーヒーを飲んでいるところもある。
車掌が通ったので、朝食を頼む。
タイの寝台列車は2度目なので、要領はわかっている。
ベットが片づけられ、テーブルに朝食が運ばれてきた。
料金は相変わらずタイの物価からするとかなり高めである。
しかし、列車で朝食を取れるのはうれしい。
ハジャイの駅に着く。
ここでこの列車は2両の2等寝台だけの列車となる。
タイからマレーシアに鉄道で国境を越えられるのはこの2両に乗っているものに限られるので、この列車の切符はすぐ売り切れる。
そう考えると、日付を間違ったのに乗れているバックパッカーの若者は幸運である。
その若者は3席ほど前いる年配のバックパッカーと気が合ったようで、席を移動してきていた。
彼の顔は有名なフランスのゴルファーに似ているのに気が付いた。
彼は別名サボテン野郎とよばれている。
サボテンに打ち込んだとき、平気な顔で球を打ったことからきている。
車両を切り離す時間を使って、いろいろな人が乗ってくる。
朝食や飲み物を売りに来る。
そして、両替の人も乗ってきた。
レートを聞くと、まあまあ良かったので残っていたタイのお金をすべてマレーシアのものと交換した。
実は昨年残ったマレーシアのお金を持ってくるのを忘れたので国境を越えてからのお金を心配
していた。
ハジャイを出発すると、後は国境を目指す。
さすがに寝不足のカミさんは爆睡である。
国境の駅は楽しみであった。
ヨーロッパの国境とは違い、全員降ろされて国境を越えると聞いていた。
下調べの通り、駅に着くと全員降ろされると、タイの出国イミグレに誘導される。
何処にでもあるイミグレである。
パスポートにハンコを押して出国となる。
出国して、20メートルほど歩くと、マレーシアの入国イミグレである。
ここは珍しくすべての荷物を開けさせられた。
自分たちだけでなく乗客全員が荷物のチェックを受けていた。
それが終わると、また車両へ戻ることとなる。
列車は全く動くことなく、国境通過である。
先頭の機関車がマレーシアのものと交換のため、切り離された。
いよいよマレーシアである。
時計は一時間戻ることとなる。
西に進んでいるのだから、一時間進めるはずなのら、ややこしい限りである。
ここから列車は寝台列車でなく普通の列車となる。
途中の駅から人が乗り、降りていく。
イスラムの国に入ったと感じさせられる。
そして、豊かな国に入ったと感じさせられる。
車窓が収益性の悪いゴム畑から儲かる油やしのプランテーションに変わる。
油やしからマーガリンや洗剤などができる。
さらに豊かさを感じるのは、列車の揺れが明らかに少なくなった。
スピードがタイより出ているように思える。
駅も新しい。
前のほうでは、老年バックパッカーとサボテン野郎に、ビール隠しのラテンおじさんが加わり
にぎやかである。
そして、バターワースに着いた。
いよいよペナンである。